大江健三郎と三島由紀夫 両氏ともに言わずと知れた戦後の代表的作家であり、彼らの著作は今なお読み継がれています。
ふと彼ら天才的な作家は英語を話すのだろうか。そんな疑問が湧きました。彼らの言語能力が高いことは言うまでもないでしょう。それでは英語も話せるのではと。
調べてみると、2人とも外国人インタビュアーに対して英語を話していたことが確認できました。
しかし、両氏の英語の発音に関しては大きな違いが観察されました。
大江氏の英語は典型的なカタカナ英語。一方、三島氏の英語はまるで英国人ジェントルマンが話すような英語。
大人のための英語塾「サウスピーク新宿校」で英語の発音矯正の先生をされているShereeさんとSharmaineさんに協力を仰ぎ、大江氏と三島氏の英語を診断していただきました。
当記事のポイント
・大江氏と三島氏の英語を比較(動画)
・両氏の英語の違いを生んでいる要素は一体何か
・違いを考察して判明した英語上達ポイント
写真左がShereeさん 写真右Sharmaineさん
大江氏の英語を診断
<Shereeさんコメント>
「大江氏は考え方を整理しながら話していますね。彼の英語は基本的に理解できますが、理解するのに聴き手側の努力を要します。
まず、rとl の区別、vと bの区別 、th、s、shの区別、 fの発音などに間違いがみられます。
また、母語である日本語の影響を大きく受けており、子音の後ろに母音を挿入しています。たとえば単語のbombは本来bamと発音しますがbambuと発音してしまっています。
彼は英語で表現することに難しさを感じているのでは。一文一文をブツブツと切って話している傾向があります。
しかし、英語学習者は彼の知識や視点について学べる点があるでしょう。豊富なボキャブラリを擁してるのは明白です。」
<Sharmaineさんコメント>
「大江氏の英語の発音より三島氏の英語の発音の方が良いでしょう。
しかし、言語学者のクラシェンのインプット仮説(注)が示すように、大江氏も網羅性ある英語のインプットと発音学習により三島氏と同レベルの英語の発音を得られるはずです。
発音が良くないと言えど言語そのものは話し手の知性を示すものではありません。大江氏の話には耳を傾けたくなります。
彼の言葉遊び、声、表現の仕方は確かな知性と寛容さを示していますね。」
注:インプット仮説とは言語習得はインプットによっておこるという考え方のこと
Shereeさんのコメントの中でとりわけ重要なのは、大江氏が話す英語は母語の日本語に大きく影響されているものだということです。
日本語には下の例のように「子音+母音」と音節が母音で終わるルールがあります。
例)「口説く」
「ku」=k(子音)+ u(母音)、「do」= d(子音)+ o(母音)、「ku」=k(子音)+ u(母音)
日本人はそのルールを英語をはじめとする外国語にも適用しがちです。
たとえば、「MacDonald」の子音の後ろに母音(赤字)を挿入して「ma・cu・do・na・ru・do」=マクドナルドと発音しますよね。これは、本来の英語の発音とは大きく異なるいわゆるカタカナ英語です。
大江氏は英語の発音に関する訓練は受けてこなかったのでしょう。そのため聞きづらいカタカナ英語になっています。
三島氏の英語を診断
<Shereeさんコメント>
「三島氏は言葉に信念を乗せた話し方が特徴的です。受け答えにも威厳がありますね。
全体的に彼の英語の発音とイントネーションは良いものですが、日本人特有の発音ミスも見受けられます。
たとえばmeanのea、emergencyのcy、 partのar、 policeの l reservedのvなどの発音ミスです。しかし、大江氏と比べて三島氏の場合、母語の日本語はさほど英語に干渉しておらず受け答えの明瞭さは失われていません。あと、大江氏と比べて一文一文をブツブツと切ることなくスラスラ自然に話せていますね。
英語学習者は彼がこのような英語の発音とイントネーションを身に着けたことを勉強の励みにできるでしょう。軍事、歴史、経済と幅広いテーマを語るボキャブラリーを擁していますね。
彼の英語レベルであれば一般人でも学習により獲得可能なレベルの英語であることは疑いないです。コツコツと勉強を継続したことが彼の英語力を培ったのでしょうね。」
<Sharmaineさんコメント>
「大江氏と同様、三島氏も母語の干渉を受けていることがわかります。rとlを区別せずに発音していますね。しかし、その干渉はわずかです。
これは第二言語の習得で大事なポイントなのですが彼は自信をもって英語を話していますね。ただ彼の話しているトピックが軍事や政治に関してなので私的には彼に怖い印象を持ちました。」
三島氏の英語は完璧に近いように思えましたが、ShereeさんとSharmaineさんの2人のコメントのように日本語の影響が確認できます。
しかし、留学経験もない三島氏がこれほどまでの英語を身に着けられたのは「すごい」の一言です。当時は英語教材もそこまで多くなかったはずです。
三島氏は軍事、政治、経済に関するボキャブラリーが豊富な点からみて関心あるジャンルの英文を日ごろから大量に読んでいたのではないでしょうか。
また、おそらく定期的に英語を話す、アウトプットの機会を設けて発音を改善する努力をしていたのでしょう。
まとめ
タイトルではガチンコ対決としましたが、大江氏と三島氏のどちらの英語が良いのか、優劣はつけられません。大江氏、三島氏、両氏ともに内容ある話をしています。
ただ英語の発音や話のスムーズさに関しては三島氏に軍配が上がるでしょう。我々英語学習者は三島氏の英語レベルを目標にすると良いのではないでしょうか。
大江氏も大量の英語のインプットと発音矯正の機会を持てば三島氏と同じ英語レベルになるという事実は私たちに希望を与えてくれますね。
日常的に大量の英語をインプットし、定期的に英語をアウトプットする機会を持つこと。まさに英語学習の王道を取ることが重要なのでしょう。
英語学習におけるインプットの効用についてはこちらを参照ください。
https://souspeak.jp/academic/learn-english/
日本語の「子音+母音」の音韻ルールに関してはこちらを参照ください。
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